西堀榮三郎の本を読んで触発され、アムンセンとスコットの極点到達レースに興味を持って読んでみた。
なんというか、レースというと好敵手の二人が切磋琢磨、というイメージをもたれるかも知れないが、まったくそうではなくて、なんと言うか、そもそも勝負になっていないと感じた。
アムンセンは子供のころから極点到達を夢見て、人生の全てをその夢の実現のためにプログラムした、という人物である。それは下記のようなエピソードからも伺える。自分の周りに居たらほとんど狂人である。
:子供の自分、将来の極点での寒さに耐えられる体に鍛えようと、寒い冬に部屋の窓を全開にして薄着で寝ていた。
:探検家になる前に船乗りになった。なぜならそれまでの探検の失敗行の多くが船長と探検隊長の不和に起因しており、船長と隊長が一緒であればその問題は避けられると考えたから。
:犬ぞり、スキー、キャンプなどの、付帯的に必要になる技術や知識についても、子供のときから積極的に「実地」での経験をつみ、学習していった
一方のスコットは、出世を夢見る英国軍人であり、極点に対する憧れはまったくない。彼はいわば、帝国主義にとって最後に残された大陸である南極への尖兵として、軍から命令を受けて南極へ赴いたに過ぎない。従って、極地での過去の探検隊の経験や、求められる訓練、知識についてもまったくの素人であった
この冒険は、結局アムンセンが犬ぞりを使って、一日に50キロを進むようなスピードでスムースに極点に到達して帰ってきたのに対して、スコットが主力移動手段として用意した動力そり、馬がまったく約に立たず、最終的に人が重さ140キロのそりを引いて歩いていくという信じ難い悲惨な状況になって、ついに食料も尽きて全滅してしまう、という結末になるのだが、いくつかの学びを抽出してみるとこういうことになるかと思う。
:戦略面での軸足を決める
アムンセンが犬ぞり一本に移動手段をフォーカスしたのに対して、スコットは動力そり、馬、犬ぞりの3種類の混成部隊を考えていた。これらのうち、どれかに決定しがたかったので、3つ持っていってうまくいく手段にフォーカスする、という考え方ならまだいい。しかしこの点でもスコットは中途半端で、動力そりについては修理する人間を連れて行っていない、犬ぞりについては犬用の食料が旅程分用意されていない、といった有様であった。結局は主力を馬にする予定だったのに寒さでまったく約に立たず、その上、馬を維持するための馬草が膨大な荷物になっていて、これを運ぶだけで隊のエネルギーが消耗される、という状態だった。
:調べられることは事前に調べる
で、これが次につながる話なのだが、そもそも極点のような零下30度というような状況で馬が機能するかどうかについて、ほとんど試験らしい試験をやっていないのもいかにも手落ちだと思う。他にも、デポに保管していた帰還部隊用の燃料タンクが、寒さで変形して燃料が漏れてしまって帰還部隊が帰りは紅茶二杯分の燃料しかなかった、というような話も、燃料タンクみたいな重大な物品が、寒さに耐えられるかどうかの試験をやっていないというのも、ちょっと驚きというか、すごい楽天的な人なんだろうな、という気がする。当たり前の話だが、調べられるものについては調べるくらいのことはしてもいいのでは。
:あきらめる勇気
スコット隊の最初のつまづきは、帰還してくる部隊の食料・燃料を置いておくデポを当初の予定より30キロ手前に作らざるを得なかった、ということだった。ここから小さなほころびが、雪だるま式に大きくなっていって、結局最後の帰還部隊はデポ手前20キロのところで息絶えてしまった。結局は、最初のデポを当初予定のところに作れていれば、帰還部隊は大量の食料と燃料にありつけたわけで、レースに負けこそすれ全滅という事態は避けられたはずなのに、結局は最初のボタンのずれを修正できずに終わってしまった。いろいろと考え方はあるが、運搬手段が全部役に立たず、人間が徒歩でそりを引いて数百キロの酷寒の地を歩いていかなくてはならないという状態になった時点で、この冒険はそもそも終わりにすべきだったと思う。スコットは精神論の好きな軍人らしく、人間がそりを引いていく事態になって、いよいよ興奮してきたらしいが、そんなのいい迷惑である。
:徹底した読み
一方でアムンセンの動きを見ると、徹底して「こうなるやもしれない」という事態に対して事前に手を打つことをやっている。往路と復路で、往路の道を復路で迷わないように10キロごとに塚を築いていくのだが、その塚から向かって左右に100メートルごと、左右15キロに渡って旗を立てているのである。しかも、東側は黒、西側は白としていた。これによって、帰ってくるときに、もし往路の道からずれてしまっても、よほどのことがない限り旗に出会って、しかもそれが白であれば自分が塚より西側に、黒であれば東側に居ることがわかるようにしていた。こういった手間のかかることをスコット隊はまったくやっておらず、そのために復路で迷走して貴重な燃料と食料、何より体力を犠牲にしてしまった。
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