Friday, May 30, 2008

エンデの遺言

08/05/27エンデの遺言

■ファンタジーは未来から学ぶための素材
- 現実逃避や空想の冒険を楽しむためではない
- ファンタジーによって将来起こるかも知れないことを具体的に思い浮かべる
- そこを起点にして新しい規準を作る
- 過去に学ぶのではなく未来を具体的に空想し、そこから学ぶ
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■スイスの経済学者ビンズヴァンガーは無限の進歩という幻想を作り出した近代経済は中世の錬金術と同じと言っている
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■1997年と1998年でノーベル経済学賞の評価の軸足は100%変わった
- 97年はデリバティブズの価格形成理論で実績を上げたショールズとマートンが取った
- 98年は当時主流だった新古典派経済学を批判し、福祉や倫理的な動機付けを視野に入れたインドのアマーティア・セン教授が取った
- ショールズとマートンは自身の価格形成理論を用いてヘッジファンド運用会社を経営したが、この会社が巨額の損失を出して倒産したことも考慮されたのかも
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■シルビオ・ゲゼルは「老化するお金」のコンセプトを提唱した
- ゲゼルは「お金で買ったものはジャガイモでも靴でも老化するのに購入に使ったお金はなくならない。これはモノと貨幣で不当競争が行われていることになる」と指摘した
- 有名なケインズの一般理論には「我々は将来、マルクスよりもシルビオ・ゲゼルの思想から多くを学ぶだろう」という言葉がある
- このゲゼル理論を用いて1929年の世界大恐慌後、オーストリアmのヴェルグルという町で一ヶ月に1%ずつ価値が減少する貨幣を導入したところ、貨幣の流動性が高まって不況が解消したという事例がある
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■お金は現代の神として振まっている
- エンデは小説「ハーメルンの死の舞踏」でお金が神のように崇拝される姿を描いた
- 確かにお金には一般的に神のものとされる特質が備わっている
- 例えばお金は不滅で、人を引き寄せ、あるものを別のものに変える
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■エンデの見るところ、最大の問題はお金がモノを交換したりするための道具であったのに、それ自体価値を持って商品として流通することになったことである
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■思想家のルドルフ・シュタイナーは社会を三分節化する社会三層論を建てた
- 社会全体を精神と法と経済に分ける
- 精神生活では自由が、法生活では平等が、経済生活では助け合いが基本理念であるとエンデは説いている
- この文節はフランス革命のスローガンだった自由・平等・博愛とそのまま対応する近代社会の理想を表してもいる
- エンデは今日の社会の問題は、この三つのレベルの異なる事象がいっしょくたにされて別のレベルの理想が混乱して語られていることにある、としている
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■マルクスの思想は根本的には正義に立脚している
- マルクスは資本家に弱者である労働者がひどい搾取をされているのを直接目撃した
- 倫理的に、これを何とかしなければいけないと考えたのは正しいが、それと彼の思想がメカニズムとして機能しなかったのは別の問題だ
- マルクスは地平から日がほっておいても昇るのと同じようにプロレタリアートによる革命から労働者の独裁が成就し、そこで新しい人間が出てくるとしていたが、結局は何も起こらなかった
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■エンデは読書のあり方にも鋭い疑問を投げかけている
- 「Mエンデが読んだ本・親愛なる読者への44の質問」で「数人の人が同じ本を読んでいるとき、読まれているのは本当に同じ本でしょうか?」という質問を投げかけている
- エンデは本という作品は、読者と本との一対一の関係の中で始めて完結するものであって、本自体で完成した作品にはならないという考え方を持っていた
- エンデはいつも、現代人は「この本は要するに何を言っているのか」という質問に捉われてしまった、と嘆いていた
- 陳腐な決まり文句や、簡単なメッセージ
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■流動しない金には流動性プレミアムが無いはず
- 貨幣、金やプラチナ、債権とうの財はそれぞれの流動性に応じたプレミアムがつく・・・・これを流動性プレミアムという
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■ディーター・ズーアは、流動しないお金、モノに変わらないお金には流動性プレミアムが無いのだから減価させるべきだと説いた
· しかしこの議論はヘン・・・流動性プレミアムは「流動させようと思ったら流動させられる」という一種の権利料なので、いま流動していないから流動性プレミアムを原価させる、というのはそもそもおかしい??
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■実はケインズも国際通貨制度改革に関して、1943年にマイナス利子率を持つ国際通貨=バンコールのシステムを提案した
- いわゆるケインズプラン
- このシステム下では、国際清算同盟の黒字諸国は国際通貨として考えられたバンコール建て残高にマイナスの利子率が課され、そのことで対外交易を加速させながら国際収支の維持均衡を図ることが考えられた
- この案は米国のホワイト案に破れ、このホワイト案をもとに現在の国際金融秩序が出来上がった
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■プラス利子率のシステムは恒常的・偏在的であったわけではない
- 古代エジプトでは減価する貨幣システムが使われていた
- 農民は国庫に収穫物を納め、対価として貨幣を受け取る
- この貨幣は国庫の収穫物にかかる修造費用とネズミ等に荒らされる分だけ減価するようになっていた
- そうすると農民はなるべく早くそのお金を使って豊かさを維持しようとする
- 農民は「なるべく長い間価値が残るようなもの」をお金で買おうとする・・・それはかんがい施設の整備や土地の改良である
- つまり土地が生んだ豊かさをお金のままで維持せず、長期的に自分の利益になるようなものに注ぎ込んだ
- このためにナイル川流域は非常に豊かな穀倉地帯になった
- これを破壊したのがローマ人・・・ローマ人はエジプトを占領してプラス利子率のシステムに全部切り替えた結果、農業に対する長期視点での投資が激減してナイル川流域の穀倉地帯は荒れてしまった
- 中世の欧州でも減価する貨幣システム=ブレクテアーテが存在した・・・このシステムの下で中世欧州人はエジプト人と同じように中長期的に自分たちの豊かさにつながるようなものに投資した。それはカテドラルである
- 当時のカテドラルは巡礼者を呼び寄せ、町に繁栄をもたらすという経済的な意味と、キリスト者たちに対する救いという宗教的な意味で中長期的な投資対象だった
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■プラス利子率では人類の未来に遺産を残せないかも
- なぜこのようなことが行われたかというと減価する貨幣だとなるべき長期的な利益になるようなものにお金を変えようとするから
- 逆にプラス利子の場合は、お金が利子を生むスピード以上で短期的に利益を生み出すものが交換=投資の対象になる
- 典型的な例は日本の林業・・・今のお金のシステムだと林業に投資しても回収に時間がかかりすぎるので、木は伐採して売り払う方が利益率が高い
- その結果、海の磯焼けと言われる砂漠化を引き起こすことになった
- いま、中世の人が残したような1000年後の人々への何者かを、我々は日々作っているのかを考えなければならない

Thursday, May 22, 2008

美学 対 実利

ソニーのプレイステーションの開発を題材にしたルポ。

■誰が見ても最初は負け試合
:とりあえず300万台売ってから来てください、とゲームメーカーに言われた

■リアルタイム性が大事
:ボタンを押した瞬間に反応する、というのが必要
:同じコンピューターでもワークステーションやパソコンにはそれほどリアルタイム性は必要ない
:従って一見リアルタイムに見えても開発者の意図しないところで突然遅延したりする
:プレイステーションの期間技術となったシステムGは画期的に遅延がなかった

■もともとゲームが作りたかったわけではない
:ゲーム以外の用途にもマルチに対応できる超高性能な家庭用コンピューターを出したかった
:超高性能なコンピューターを作るためにSGIのワークステーション用LSIが使いたかった
:しかしSGIのワークステーションは1000万円くらいした
:高価になる理由は簡単で、数が少ないから
:数を出せば安くなるはず、そこで数を出すためにまずはゲームとして出すことにした

■コンセプトを骨太に
:セガセターンはもともとドット絵を前提にしたアーキテクチャ
:ところがアーケードで出した三次元CGのバーチャファイターが大うけ
:その上にソニーが三次元CGのゲーム機を出すと聴いた
:戦略を完全にミスった、とこの時点で気付いた
:そこでほぼ完成してたセガサターンの設計に、同じCPUを加えて三次元CGに対応させた
:久夛良木氏曰く「後付で何とかなると思うほうが悪い。性能も良くならず、コストも跳ね上がる。ありものの組み合わせでいいものはできない」

■CD-ROMを採用したのも同じ
:もともとのコンセプトが絵と音と文字を同時に扱えるエンタテイメントコンピューターである以上、容量の少ないROMカートリッジは不適切
:初期のコンセプトに拘って、いろいろ議論はあったものの「CD-ROMで行こう、決まりだ」と久夛良木氏が決断
:CD-ROMにした結果、製造コストも下がり、製造リードタイムも短くなった
:製造コストとリードタイムが圧縮化したことで、初期に小さく作って市場の反応を見ながら生産するというアプローチが可能になった
:任天堂のROMカートリッジはその逆で、リスクを取れないために売れることが確実のソフトを初期に大量生産するだけで、しかもリスクを任天堂側でとることを嫌い、すべてソフトメーカーの買い上げにしていた・・・ここに潜在的に不満を持っているソフトメーカーは多く、最終的にはドラクエのエニックスやファイナルファンタジーのエニックスもソニー側につくことになった

■新しいゲームクリエイターを採用
:新規プラットフォームだからエースクリエイターはゲームを作ってくれない
:そこで既存のゲームクリエイター以外から新たな才能を集めた
:佐藤雅彦のIQや松浦雅也のパラッパラッパーはその代表

■次世代機を出すに辺り、飛躍的な性能向上を求める
:エンジニアでさえ、それは無理ですよ、という数値を社長が出す
:無理ですよ、というエンジニアに対して、納得せずストレッチしまくる

■とにかくハードでちゃんと黒字を出す
:いくつかの分析ではプレイステーション本体は赤字で、ソフトのライセンスで儲けているとされていた
:確かに生産初期の歩留まりの悪い段階で本体が赤字だったことはある
:しかしこの考えを「考え方のポイントがずれている」と久夛良木氏は一蹴する
:曰く「ハードで黒字化しないと健全なビジネスにならない。ハードの黒字化に失敗したところは結局はみんな撤退しています」
:セガサターンもそうだった。急場しのぎの設計変更でコストが上がったが競争力を維持するために赤字でも売り続けた
:この価格切り下げ作戦はソニーの作戦通りだった。もともとシンプルなアーキテクチャを採用しているプレステは価格を下げやすいため、改善がどんどんコスト切り下げにつながっていったがセガサターンはもともと後付けで出来上がったためにコスト削減をしにくいアーキテクチャだった
:セガはソニーほど企業体力が潤沢ではない・・・大きな投資を行って開発したハードを赤字で販売し続けることは企業体力を徐々に奪っていく
:類型販売台数が1000万台を超えるころにプレステはハード単体の販売での黒字化を達成

■後で決められることは後で決める
:同時平行で技術開発を進めていて、なかなか決めないことが後で助かったということが多かった

■安く作るためには抜本的なアイデアが必要
:プレステ用に世界で始めてDVDとCD両用のピックアップレンズを開発した

■底の深いプラットフォームが必要
:ゲーム開発者が1~2年でハードの潜在能力を引き出せるようでは開発者が飽きてしまう
:発売後4年ぐらいしてやっと性能の100%を引き出せるようにする
:ハードウェアの世代交代が近い時期になると100%を超えるようなとんでもないソフトが出てくる
:PS2は一言で搾り出せる機械になっている

■スピードの限界は熱の限界
:コンピューターの性能を上げるにはクロックスピードを上げればいい
:クロックスピードとはパソコンのCPUが一秒間に何回のサイクルで仕事をするかということ
:例えば2ギガヘルツのCPUなら一秒当たり20億回のサイクルで処理を行っている
:クロックスピードを上げると消費電力も上がり、その分発熱量も増える
:過度の発熱はプロセッサの正常動作を妨げる
:この発熱量の増大が、実はコンピューターの性能アップの最大のボトルネックになっている

■中堅ソフトの苦戦
:PS2の売上はなかなか伸びなかった
:理由は中堅ソフトの苦戦
:大ヒットシリーズは相変わらず売れていた

■難しくなりすぎたゲームの隙間を取られた
:理由はゲームが難しくなりすぎたことにある
:コンピューターが高度化してゲームも複雑になり、10時間プレイしないとゲームとしてのおもしろさが見えてこないようなソフトが多くなってきた
:これは著しく他の娯楽に比べてタイムコンシューミング
:学習コストが高くなったことによって、シリーズものへの傾斜が強まった・・・PS2発売から2007年8月までに国内に出されたトップ100タイトルのうち、シリーズものでないのはなんとたった3本しかない

速さと正確さ

ネットは新聞を殺すのか、を読んで

欧米やアジアには「消息筋によると」とか「うわさでは」といった形で、真偽の程は定かではないがこういう情報がある、というのをまとめて提供してくれるサービスがあります。

これは既存のマスメディアに対する大きなカウンターサービスになる可能性があるかも知れません。

根源的に考えれば、情報の価値の大小を決定するのは「正確さ」と「速さ」と「深さ」の三点であることがわかります。

このうち、上記のサービスは「速さ」で勝負していると言えます。

伝統的に、マスメディア、特に新聞は特ダネを取ると褒められ、誤報を出すと怒られるという側面があります。特ダネというのは「速さ」で一番を取りながら、正確さも担保する、ということですから情報の価値の3つの側面では二つを担保しているということなので、これは褒められるのは当たり前なのですが、問題は誤報です。

速く出すことを志向すればどうしても正確さは犠牲になってしまう。正確さを余りに重視するが故に速さが犠牲になる。

インターネットメディアが速さで勝負するのであれば既存マスメディアは正確さと深さで勝負するのだ、というと聞こえはいいですが、記者クラブ依存体質のままではこの二つに関しても大きく他メディアと差別化するのは難しいかも知れません。