Monday, October 22, 2007

読書日記:日本人のための宗教原論

10/23 日本人のための宗教原論 小室直樹 

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■宗教をわからないと痛い目にあう
- 仏教では地獄はないことになっている・・・オウムは仏教を標榜しているのに、地獄に落ちる、と言い募った段階で「あ、これはインチキだ」と思わないといけない
- 仏教は実在論を否定する・・・人間の心の外に実在するものは何も無い・・・これが仏教の入門の初歩の初歩であるとともに極意であり蘊奥でもある
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■マックスウェーバーは宗教を「エトス」と定義した
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■世の中には啓典宗教とそうでないものがある
- ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は啓典宗教である
- 仏教、儒教、ヒンドゥ教はそうでない
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■個人救済という側面でも分けられる
- キリスト教、仏教、イスラム教は個人救済の宗教である
- ユダヤ教、儒教は集団救済である
- 儒教のイデオロギーは「政治万能主義」である・・・良い政治は経済も文化も人心も何もかも救う・・・それどころか作物も育ち、イナゴは来なくなり、鳳凰や龍が飛んできて挨拶する
- 一方で個人の救済はまったくしない・・・例えば孔子の高弟である顔回は、孔門十哲の筆頭で、学問・徳の高さに秀でていたが、米のカスも食べられないほどの困窮に陥り、ついには病に倒れてしまう・・・この彼に、孔子は「嫌な世の中だよね」と嘆くだけ・・・そこで「政治をよくしなければ」と来る・・・そうクルか!
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■仏教には天地創造という概念が無い・・・従って終末論もまた無い
- 仏教を持ち出しておいてハルマゲドンとか終末とか連呼しているのはバカ
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■仏教では悟りを開いた人はもう生まれ変わらない・・・生まれ変わるのは業があるから・・・カルマがあるからである
- 釈迦のように悟りを開いた人はカルマをきれいになくしたわけだから、もはや生まれ変わらない
- したがってよくいる「釈迦の生まれ変わり」というのは絶対にウソである
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■良い状態・理想状態を明確に規定しないところにイデオロギーの妙味がある
- キリスト教は単に「神の国」というだけで、それがどんなものかを具体的には言わない・・・言わないことで勝手に各自が理想的なものを考える
- これはマルクスが「社会主義」を宣言して、労働者が七転八倒しているのは資本主義のせいであり、これを打倒しろと説いたが、打倒したら具体的にどうなるのか、ということについては明言を避けている
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■キリスト教はキリストの教えだが、仏教は釈迦の教えではない
- 仏教の教えはダルマ=法のこと
- ダルマは慣例、風習、義務、法律、心理、教説など、さまざまな法則を指す
- 釈迦が発見しまいと発見しようと、ダルマは存在する
- だから釈迦の教えが正しいのは、ダルマを発見・理解した人だからであって、教えそのものは釈迦から出たものではない・・・これを法前仏後という
- キリスト教では、何よりまず神が最初にある・・・そして神が説いた神の教えがある・・・つまり神前法後である
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■日本人は、建前と本音を、何の苦も無く使い分けられる
- 米国では進化論を教えた教師が罷免されるなど、キリスト教のファンダメンタリストは非常に厳格に聖書の記述を信じている
- 太平洋戦争で捕虜になった日本人に米国は進化論から教えた・・・なぜ特攻などが出来るのか、という分析の結果、日本人は天皇を現人神と信じているからだということがわかった・・・そこで人の子孫はサルであって太陽ではない、ということを教えようとした
- ところが教えられた日本人は「進化論?知っている」と答えた・・・これにアメリカ人は非常に驚いた・・・なぜ現人神を信じている人が科学としての進化論も受け入れているのか?矛盾ではないか!ということである
- しかし当の日本人にしてみれば矛盾も何も考えない、アレはアレ、コレはコレということで、どうもアメリカ人には理解できなかったらしい
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■仏教の啓典は誰でも作ることが出来た
- 如是我聞(にょぜがもん 私はこのように釈迦から聞いた)とアタマにつければ、なんでもお経になった
- 仏教の正典がきめられていない理由がいくつかあるが、一つには釈迦の親切であると証明されたものは何一つ無いことである
- じゃあクソミソかというとそうではなくて法華経や般若経などのいわゆる大乗仏典は、みんな後世の創作であることがわかっている・・・これらのものはインドの超一流の哲学者、宗教家が、いろいろあるなかから「これはまあよかろう」ということで選んだもの
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■空とは無のことではない、いわんや有のことでもない
- 空観(空の理論)は形式論理学を否定した一種の超論理学である
- 空は虚無と同一視するのは間違い
- 神はあり、また無い・・・これが空である・・・形式論理学ではこの命題が両立することは無い
- ユークリッド幾何学における点と線みたいなもの・・・・図面の上の点は広さを持たないが、厳密には広さを持たない点などもちろんありえない・・・太さを持たない線もしかり・・・では面積があるかといえば、無い・・・では無いかといえば点としてあり、線としてある・・・幾何学における点や線を有るか無いかで議論できない
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■イスラム教国・教徒は今後も増えるだろう
- イスラム教は大変わかりやすく、効験あらたかな宗教である
- 歴史上、イスラム教化した国が仏教に変わったということは無いが、逆はたくさんある・・・西域(シルクロード)諸国は、昔はみな仏教国だったのにみんなイスラム教に改宗した
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■イスラム教で、異教徒と戦って死んだ人=聖戦(ジハード)で戦死した人は死んだことにならない
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■パウロはキリスト教の最重要人物の一人だが、最大の功績は内面と外面の区分をおこなったことである
- 外面的にはどうであれ、内面で信じていればぜんぜんOKとした
- このためにローマ支配化でローマの法律には面従していながら、内面はキリストを信じる、という信仰のあり方が可能になった
- これがなければキリスト教は滅びていただろうとマックス・ヴェーバーは言っている
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■中国の科挙制度が長く続いた背景には宦官制度がある
- 官僚制が機能するためには官僚制と競合するカウンターバランスシステムが居る
- 中国においては科挙のみに基づいた官僚制が千年近くも続いた
- そのカウンターシステムとは宦官のことである
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■夫婦別姓が問題になっているが、こんなの明治に人が作った制度でしかない
- 明治23年以前は別姓が当たり前だった
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■戦後日本の精神的荒廃=アノミーは連帯の喪失にもとづく
- まず昭和30年代から村落共同体が、高度経済成長がスタートするとともに徐々に崩れていって昭和40年代にもうなくなってしまった
- それを収束させたのが左翼運動と会社だった
- いまの日本のカルト宗教、教団は、その信者たちのアノミー救済のために機能している
- アノミーはフランスの社会学者エミール・デュルケムの用語で、普通は「無規範」とか「無秩序」と約すが、それはむしろアノミーがもたらす結果であって、言葉としては「無連帯」というのが近い・・・人と人を結びつける連体が失われ、人々は孤独・不安・凶暴になり社会をさまよう
- 終身雇用や年功序列はもともとは日本の経営にはなかったが、このアノミー状態を収束させていく昭和30年くらいからスタンダードになった
- 安保闘争というのも、要するにイデオロギー的な問題ではなく、皆で「わっしょいわっしょい」と騒ぎたい、そうやって連帯を感じて安心したい、というだけの話である
- カリスマ、という言葉はもともとマックス・ヴェーバーの言葉で、原義は「神の恩寵」である・・・人そのものがカリスマではない・・・そしてソ連はスターリンのカリスマ化に成功したから大躍進した
- ところがその後、ソ連は大失敗を犯してしまう・・・・スターリン批判によりスターリンのカリスマをめちゃくちゃにしたことでソ連をアノミーに陥らせたのだ

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