レオナルド・ダ・ヴィンチ ケネス・クラーク 法政大学出版局
3月20日読了。
一番面白かったところの抜粋。
「教えてくれ、これまでに何か一つでもやり遂げたことがあるだろうか」。この言葉はレオナルドのノートやスケッチに度々登場する。複雑な計算の合間にもふと書かれているこの言葉は、はっきりと彼の病んだ心を表している。
もともとレオナルドという人は器用貧乏だったのかもしれない。結果的には貧乏でもないし、器用という言葉にそぐわない程の傑作を残したのだが、ずっと不完全燃焼だったのだろう。
レオナルドは晩年にフランスに城を与えられ、仕事といえば領主の話し相手になることだけ、ということで無為の日々を送った。その期間、彼は油絵はおろか、スケッチや素描すら残していない。腕の麻痺が進行したという話もあるが、もともとが努力家でもなかった上、粘り強さも無かったということなのかも知れない。しかしその性癖を持ってあれだけの傑作を物にしたのだから、惜しいというかなんというか。
著者のケネス・クラークはイギリスの美学者だが文中のそこかしこにレオナルドに対する愛着が横溢していて微笑ましい。レオナルドは図形のパズルのようなものを大量にスケッチブックに残しているのだが、著者は「ああ、この無意味な時間を彼が何らかの創作に当ててくれていたら」と慨嘆の息をもらしている。むべなるかな。
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