Monday, September 3, 2007

読書日記:ヒトデはクモよりなぜ強い

9/3 ヒトデはクモよりなぜ強い オリ・ブラフマン/ロッド・A・ベックストローム


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■エルナン・コルテスはアステカを、フランシスコ・ピサロ率いるスペイン軍はインカ帝国を滅ぼした
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■そのまま快進撃しながら北上したスペイン軍はアパッチ族と対戦し、敗れた
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■スペイン軍がアパッチに敗れた理由は、アパッチの組織の分権構造に起因する
- アパッチ族が、インカやアステカになかった秘密の武器を持っていたわけではない
- アステカやインカにはトップダウン・中央集権のシステムがあり、これを破壊する・・・つまりアステカにおけるモンテスマ二世、インカ帝国におけるアタワルパ皇帝を殺すことで大混乱を引き起こし、文明を崩壊させた
- 具体的には、コルテスは当時世界最先端の都市システムを持っていたアステカの首都:テノチティトランに食料を持ち込めないようにし、道路と送水路を遮断し、24万人の住人を餓死させた
- しかしアパッチにはそのような中央集権のシステムやインフラが無かった
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■アパッチには権力を持つ統治者はいないが、ナンタンと呼ばれる精神的・文化的な指導者がおり、これが行動で規範を示し、それに他人が従うことで一種のコーディネイションが生まれていた
- ナンタンは権力を持たない
- 市場最も有名なナンタンがアメリカを相手に何十年も部族を守ったジェロニモである
- ジェロニモは戦いの指揮を執らない・・・ただ武器をもってアメリカと戦う姿勢を見せるだけである・・・それに周りの人が「彼が戦うなら」といってついてった
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■つまりアパッチの意思決定は分散的である・・・これはつまり誰も重要なことを決定していないと言えるが、一方でそこらじゅうで重要なことが決定されているとも言える
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■アパッチは攻撃を受けるとより細かいユニットに分かれてさらに分散度を高める・・・・これはナップスターのようなPtoPサービスに非常によく似ている
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■クモは頭を切り落とすと死んでしまうが、ヒトデにはアタマが無い・・・そして半分に切り離すとそれは二匹のヒトデになってしまう
- ヒトデは神経回路網でできているからそういうことが可能
- リンキアという腕の長いヒトデは、切り落とされた片割れもヒトデになる
- ヒトデが、全体としての動きをどうコーディネイトしているのか、という点についてはまだわかっていない
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■ヒトデに似た組織は、世の中に結構あってなるほどうまくいっているのが多い
- たとえばアルコホリックス・アノニマスはオーナーもいないし出入りも自由だが、非常に強力なアル中治療のコミュニティである
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■業界内で分散化の度合いが高まると、通常は業界内に留保される利益は少なくなる
- PtoPサービスによって大手レコード業界は売り上げの25%を失ったが、それがPtoPサービス業者に入ったわけではない・・・この25%は文字通り、“失われた”のである
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■権限を分散させると混乱が生じるが、一方でそこには創造性も生まれる
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■分散されたネットワークの人々の価値を引き出す人を触媒というが、触媒の人に共通して見られる特徴は「説得しないで共感する」という力の持ち主であるということだ
- 情熱的なのと押しが強いのは違う・・・触媒の人々は人に無理強いするのではなく、肯定することで人を仲間にしていく
- 著名な心理学者のカール・ロジャースは、専門家気取りの助言は、相手のためを思ったものであったとしても逆効果だと警告している・・・強く説得的に言われると、人は心を閉じてしまい、変わろうとしなくなってしまう
- ロジャースは言う・・・人の態度を変えさせたければ、相手の経験を肯定するのがもっとも効果的であると
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■あいまいさに対して寛容であることは触媒にとって必須の性質である
- 触媒の人にインタビューすると、しばしば「わからない」という返答が来る
- 実際には、わからない、というよりわかりようがない、というのがその答えである
- わかりようがない状態が通常であるのでこれに秩序を求めたりしてはいけない
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■ヒトデ型組織を攻撃するには、頭を切り離すのではなく、組織の末端が動くインセンティブを取り除くことが有効である
- ジャミイボラ信託は、ケニアのスラム:キベラで貧困に苦しむ人達用に、自分でビジネスを始める、自己投資をする人たちのための資金提供を行っている
- この信託によって犯罪やテロに手を染めようとしていた若者がまっとうな人生を歩む道に帰ってきている
- そして、この仕組みはアルカイダに対する最高の攻撃になっている・・・・スラムは絶望的な場所であり、望みが無いからテロでもやるか、といったように多くのテロリストが生まれてきた・・・しかし今は彼らはテロに手を染めない・・・なぜなら彼らには「希望」があるから
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■アルカイダを壊滅させるためには機関銃ではなく希望が必要なのである
- アメリカがアルカイダに宣戦布告して軍隊を派遣したのはまったくアルカイダという組織の形質をまったく理解していないから
- どこにもアタマが無い、どこにも急所が無い組織である以上、どこを攻撃してもアメーバ状に変形するだけで意味が無い
- それよりも、アルカイダの組織の末端を形成する絶望した若者たちに「希望」を与えることでテロ活動を行うための誘引を失わせしめれば、アルカイダは自然に崩壊する
- これは貧困を救うのに食べ物を与えるのではなく、食べ物の作り方を教えてあげるのに似ていないか?
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■君たちのやっていることを止めなさい、というお説教を「こんなのクールじゃないよね」といった、ティーンエイジャーのまねをしようとした大人たちから聞くほどいやなことは無い
- レーガン元大統領夫人の薬物撲滅キャンペーンの「Just say no」も海賊版撲滅ののキャンペーンもみな失敗した
- 何かイデオロギーができてしまったらそれを真正面から変えるのは難しい
- ではどうやったら変えるのか?
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■アパッチは、長らくスペインやアメリカの攻撃に耐えたにもかかわらず、ある方策によって簡単に崩壊してしまった
- 文化人類学者のトム・ネビンズは解説する「アパッチ族は1914年までずっと脅威だった・・・そこで、アメリカ人はアパッチ族のリーダーであるナンタンに蓄牛を与えて、その社会を崩壊させたのです・・・実に簡単なことでした」
- いったんナンタンが牛という財産を手に入れると、それまで観念上のものだった彼らのリーダーシップは、物質的な差異・・・持てるものと持たざるものに変化した
- 以前は自らの行動で規範となっていた人物が、蓄牛を分け与えたり、分け与えなかったりすることでアパッチ族の人々に報いたり罰したりするようになった
- 権威的な力を持つとナンタンたちは創設されたアパッチ族内部の議会の議席を争うようになり、米国企業のエグゼクティブのような行動をとり始めた
- アパッチ族の人々も、より多くの資源配分を要求するようになり思い通りに分配されないと気を悪くしたり、争いが起こるようになった
- こうして中央集権的な権力構造が生まれた結果、アメリカ社会にアパッチ族は取り込まれることになったのである
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■アルコホリック・アノニマスでも同様のことがおき、組織は変質した
- アルコホリック・アノニマスでは、それまでの共和制的な運営が、いったん発行した本がベストセラーになって莫大な印税が組織に入るにつれ、その分配をめぐって権力争いが発生し、やがて権力の集中化が起こった・・・
- これはウィキペディアでも起こる可能性がある
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■新しい世界を予測するのはいつも難しい・・・
- ポール・スターは著書「クリエーション・オブ・ザ・メディア」でこう述べている
- 1917年に権力を握った旧ソ連の支配者は、当時、ほかの多くの国がそうしていたように電話ネットワークに投資することもできた
- しかし彼らはそうせず、当時登場してきたばかりの別のテクノロジーに力を注いだ・・・それは拡声器である
- ソ連は国中に電話線を張り巡らせる代わりに、国のいたるところに数え切れないほどの拡声器を設置し、愛国的な歌や共産党の演説を流したいときにすぐさま流したいだけ流せるインフラを作った
- 経済発展のため、知の創発のためには一般個人のコミュニケーションが重要であるにもかかわらず・・・・

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