燃えよ剣
一言で言うと新撰組副長だった土方歳三の生涯をつづった本です。
一種、新撰組というベンチャーの創業者の物語という読み方も出来ます。
土方は一種の組織造り、組織運営の天才で読めば読むほど現代に生きていればきっとビジネスマンとして活躍しただろうな、という気がしてきます。
以前に、大好きだった塾の国語の先生に言われたのですが、新撰組というのは世界史的に見ても稀なほどの純度の高い剣客集団で、その規模を考えると実質的には史上最強だっただろうとのこと。
それだけのパフォーマンスを組織として維持するためにどのように人を集め、教育し、規律を持たせるか。ここに単なる歴史小説として楽しめる、という以上の学びがあり、つまり色々とビジネス上のヒントがあります。
ただし、個人的にアスピレーションを感じるかというと・・・・ちょっと違う。この本はもともと親友から読め、と言われたのがきっかけだったのですが、その友人が感じたような憧れ・・・本人は「滅びの美学」と言っていました・・・、僕自身はあまり感じませんでした。
むしろ、イライラしたという感じでしょうか。
この人は小さいと思う。
歴史的な視点と世界地理的な視点の2つが全く欠けていて固陋に武士道にこだわり、侵略を目論む西欧列国に対し、日本国全体の足並みを揃えていこうという国事の足を引っ張って引っ張って引っ張りまくった団体の張本人が新選組で、その親玉が土方です。
加えて、一種の殺人嗜好症のようなところもある。新撰組副長時代の京都から東北、最後の五稜郭まで含め、とにかく斬り、裂き、突いて血煙を浴び続けます。何故それが可能だったかというともちろん本人の剣術、軍略センスもあると思うのだが何より幕府から「守護」のオーソライズを得たことも大きいのでは。
つまり土方という人は局地戦での軍略という点においては戦略の天才なのですが、国家間での争い、という点については全く戦略的視点が無い人のように見えるんですね。これに軍事力だけは突出して備わっているわけだから政治的には極めて扱いの難しい人だっただろうと思います。
話の後半で、幕府に忠誠を誓って江戸城に居座ろうとする新撰組と土方に対して、それを疎ましく思う勝海舟が「甲州の城を落せ。落せたらそのまま甲州を差し上げる」として城から出陣させるクダリがあります。なけなしの軍資金を与えて京都から攻め上がる官軍の防衛となれ、ということなのだが、種明かしをすると無血開城を目論む勝海舟にとっては江戸城で殺人嗜好症でかつ薩長から蛇蝎のように嫌われている新撰組+土方を追い払うことが政治的な工作のためには都合がよかったということなのです。
やはりこういうところを読むと時代を読む目、大きな視点での戦略ということにかけてはとてもじゃないが土方は勝の足元に及ばないな~という気がします。
面白くて考えさせられた、良い本でした。
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