Sunday, August 26, 2007

読書日記:生物と無生物のあいだ

8/27 生物と無生物のあいだ 福岡伸一

ムチャクチャ面白かったです。生命科学も、ある程度以上踏み込んで考察するとそこに
美しさがありますね。深みのある本でした。



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■野口英世は生活破綻者だった
- 結婚詐欺まがいのことを繰り返す
- 支援者や婚約者を裏切り続けた
- お札になったのは皮肉・・・樋口一葉も人格的にはお札に最も遠い

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■生物が原子に比べてかくも巨大になったのは活動の精度を高めるためである
- シュレーディンガーは問う、なぜ人間やその他の生命は原子に比べてかくも巨大になったのか?例えば原子100個からなる生命体というのはなぜ存在しないのか?
- その答えは平方根の法則にある
- 標準から外れて例外的な動きをする粒子は、全体の数の平方根だけ存在する・・・つまり100個の粒子があればルート100・・・10個の粒子は例外的な動きをすることになり、つまり原子100個の生命体があればその一割は全体とは異なる動きをすることになる・・・これは生命体の秩序を維持する上では致命的に高い確率である
- 一方、100万個の原子からなる生命体を考えて見ると、その平方根である1000個の原子が例外的な振る舞いをすることになるが、これは1千/100万になり、つまり0.1%になり格段に下がる
- 実際の生命体は100万どころかその数億倍の原子からなっている・・・生命現象に参加する粒子の数が多くなればなるほど平方根の法則によって誤差率は下がる・・・・これが生命体が原子と比べて際立って大きいことの物理的な理由だとシュレーディンガーは言っているのである
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■成熟した生命体で、成長が殆ど無くなった状態でも摂取された食物は体を構成する要素になっている・・・一年経つと人間も分子レベルではすっかり入れ替わってしまう
- 窒素は原子番号7の元素で原子核には中性子が7個、陽子が7個あってその質量数は14になるが、ごくまれに陽子が8個ある重窒素がある
- これをネズミに取り込ませてそれがどこに行くのかをチェースしていく
- 当初は大人のネズミであるから体に取り込まれるよりもエネルギーとして燃焼され、排泄物の中に現れるだろうと予測されていた
- ところが、実際には排泄されてしまったのは3割程度で、残りは内臓や血清に取り込まれていた
- しかも、より消耗が激しいと思われていた筋肉たんぱく質への取り込みは少なかった
- つまり「お変わりありませんね」と言ったりするが、一年もあっていないと分子レベルではすっかり入れ替わってしまうのである
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■生命体の特質はエントロピー増大の法則に抗って秩序を維持するところにある
- エントロピーはカオスに向けて無限に増大する
- 高分子は酸化し、分断される・・・集合体は離散し、反応は乱れる
- 生命体は、やがて崩壊する構成成分をあえて先回りして分解し、このような乱雑さが蓄積する速度よりも速く常に再構築を行うことで秩序を維持している
- エントロピー増大の法則に抗うにはシステムの耐久性と構造を強化するのではなく、むしろその仕組み自体を流れの中におくことにある・・・つまり「流れ」こそが生物の内部に必然的に発生するエントロピーを排出する機能になっている
- では、絶え間なく壊されているにも関わらず、秩序はなぜ維持されるのだろうか?なぜ、動的平行は均衡するのか?
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■生命体は流れの中にあるジグソーパズルである
- 絶え間ない破壊と秩序維持、この相矛盾するシステムが維持されるポイントは相補性にある
- ジグソーパズルのピースをなくした人用に、ピースを送ってくれるサービスがある・・・・その際、メーカーにはなくなってしまったピースの周囲8個を送るように支持される・・・・周囲の8個があれば無くなったピースの形が特定されるのである・・・つまり、ピースは手元に無かったとしても相補性のある相方がいれば、そのピースを特定できるのである
- 人間の体もこれと同じで、数兆個からなるピースで出来たジグソーパズルと考えればわかりやすい
- ピースピースは絶え間なく破壊され、傷ついていく・・・しかしその都度、新しいピースがまた生まれていく・・・生まれるピースはピースそのものに設計図があると考えるより「どこにはまるピースなのか」という側面から生産されていく
- そしてある時間がたつとすべてのピースが新しいものに入れ替わっていくのである・・・しかし絵柄は以前と変わらない・・・すべてのピースが常時入れ替わっているにも関わらず、すべてが入れ替わった後でも絵柄は変わらないのである・・これが相補性の本質である
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■細胞が、過酷な外部から内部を守りながらも分泌物を外部に放出するために「内部に外部」を作っている
- 細胞壁は過酷な外部環境から生命体の内部を守っている
- しかし、細胞は一方で分泌物を外部に対して放出する機能も担っている
- この防御しつつ、放出するという機能をまっとうするために、細胞は一度、内部に外部を作り、その内部の外部に分泌物を出してから、徐々にその内部の外部を端っこに寄せて外に放出しているのである
- 細胞をやわらかい風船と考えれば、その風船をへこませて凹みをずっと内部に持っていて、外側のあいた部分を塞ぐと、内部に外部ができることになる・・その段階で分泌を行ってから、再度、それを壁まで持っていくことで、外部からの攻撃リスクを最小化しつつ分泌を行っているのである

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